作品の制作プロセスについて
最初に、対象物をデジタルカメラで撮影します。 少しずつ視点を変えて、30~100枚撮影します。 この画像をコンピュータに読み込んで、立体情報をコンピュータに計算させます。 計算の結果、得られた立体データ(3Dデータ)に、ライティングや質感設定を行い、 版画作品に使用する画像を完成させます。(コンピュータでの作業) その画像から、シルクスクリーン印刷をする為のポジ原稿を出力します。(これ以降は、通常の版画作品の工程) その原稿を使って、シルクスクリーンの技法で、ゴムシートに刷ります。

撮影の段階で、撮っていない部分が、3次元化する際に生まれる訳ではないので、最終的な版画作品に必要なエリアやアングルを考えて撮影します。 ただ、どのように立体化されるのか、撮影現場では100%わからないので、 アングル違いや、フォーカスを合わせる位置などのバリエーションは数パターンは撮影しておきます。
写真から立体データを生成する技術をフォトグラメトリー技術といいます。
元はすべて静止画・写真なので、風景、空撮の街、山岳、から、卓上、昆虫、まで、対応できる対象の大きさは幅広いです。ただ、苦手な対象としては、ガラス、メタリック、真っ白、真っ黒なもの、柄の無いフラットな面などです。つまり、表面の位置情報を得づらい対象です。 (ただし、苦手だったり、計測がうまくいかない事を受け入れた作品をつくっていますが) 対象が動かなければ、1台のカメラで移動しながら撮影しますが、動く対象の場合は、カメラを30~50台並べて設置し、同時にシャッターを切る事で、瞬間の多視点写真・立体情報を得ています。得られた三次元情報は基本、意図的に歪ませたり、表面を滑らかにはしていません。そのまま使っています。

つまり、ノンフィクションとして、作品に登場する場所や物、人物は実在しますが、過程の中で私自身が造形した立体物は存在しません。

版画のプロセスに関して。
完成した、モノクロームのイメージを、明るさによって分け、ポジ出力します。網点の線数はトーンによって変えています。それを原稿とし、インクで刷り重ねてゆきます。完成した作品を近くで見ると、大きさの違う網点が重なっている事がわかると思います。
色は、暗い色から、明るい色へと刷り重ねてゆきます。最後に、白いハイライトを刷ります。4色4版です。作品イメージの色は、この時、調色したインクの色です。コンピュータで色を付けている訳でありません。黒いゴムを出発点としているため、使える色相が限られます。赤やオレンジは、極端に彩度が落ちますし、黄色だと鮮やかすぎて浮きます。ブルーやグリーンが、黒から立ち上がって、立体感を出すのに適しているように思います。 ゴムシートは、屋上を施工する際に使う、防水シーリング用のゴムシートです。